ご挨拶

最新の脳科学研究の成果に基づいた省エネ型人工知能技術の実現に向けて

大阪大学大学院情報科学研究科 村田正幸

最近の情報処理技術の飛躍的な発展によって深層学習が実装可能になり、人工知能(AI)技術は今後の社会の発展のために必要不可欠のものになりつつあります。

一方で、「AIが人間の知能を大幅に凌駕する」シンギュラリティが2045年に起こるというRay Kurzweil博士の予測があります。

賛否さまざまな意見がありますが、シンギュラリティの議論においておそらく十分に考慮されていない点、それがAI処理を実行する計算機の消費電力の問題です。

技術的観点からシンギュラリティが2045年に起こらないという指摘も十分考慮に値するものです。

しかし、AI処理に要する電力消費が現実に受け入れられないほど膨大になり、そもそもシンギュラリティが起こるか起こらないかという議論自体が成立しないという可能性も十分にあります。

現在の深層学習は、学習のために大量データを必要とし、高度な計算機能力なくして成り立ちえないものだからです。

AI処理のための消費電力の増大に関する警鐘もすでに何人もの科学者から提起されています。

持続発展可能な社会のために今、私たちが真っ先になすべきこと、その一つは間違いなくAI導入によって引き起こされる環境負荷の格段の削減です。

そのために貢献すること、それが私たちのこのプロジェクトにおける目的です。

具体的に、私たちは今、脳科学の最新の成果に基づいた省エネ型人工知能の研究開発「Green AI Challengeプロジェクト」に取り組んでいます。

本プロジェクトは、大阪大学、東北大学、九州大学、情報通信研究機構、(株)iDの5機関が共同で進めており、総務省委託研究課題「脳の仕組みに倣った省エネ型の人工知能関連技術の開発・実証事業」として支援をいただいています。

本プロジェクトは、大阪大学において研究開発した、脳の認知メカニズムに倣う脳型人工知能技術である「ゆらぎ学習」に基づいています。

ゆらぎ学習は、人の脳の優れた認知機構と意思決定機構、すなわち、データが少ない状況であっても、変動のある環境、さらに、ノイズのある観測データであっても意思決定可能な機構です。

本プロジェクトでは新たに脳のひらめきの機構等にも着目し、その解明とともに、ゆらぎ学習を拡張しながら、省エネ型人工知能技術(Green of AI) の研究開発を推進しています。

また、安定した電力が人工知能に供給できない環境等も考慮し、ゆらぎ学習のさらなる省エネ化を狙ったハードウェア化にも取り組んでいます。

さらに、第6期科学技術・イノベーション基本計画においてその実用化が期待されるサイバーフィジカルシステム(CPS) に成果を適用し、省エネ型人工知能を活用した社会の実現(Green by AI) に向けた研究開発と実証実験を進めています。

特に、本プロジェクトの具体的な省エネ化事例として、次世代ICTインフラであるBeyond 5Gにおけるデジタルツイン構成技術の実現、並びに、製造業を中心とした産業の省エネ化・地球温暖化ガス排出削減の具体化例として電炉製鉄プラントに対する適用に取り組んでいます。

持続発展可能な社会の実現のためカーボンニュートラルを目指した本プロジェクトの内容をみなさまに知っていただき、また、ご忌憚のないアドバイスをぜひ頂戴したいと思います。みなさまのご支援の程、よろしくお願い申し上げます。

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